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決して酔っ払ってなどいないが、妙なテンションになってしまった私を乗せた電車は無事、松島へと到着した。
辺りはまだ暗い。どうやら間に合ったようだ。
つい先ほど思いついた私の計画はまさに完璧であった。
私は海のそばに立つ観光案内所みたいな施設の横の広場にある岩みたいなのにちょこんと座った。
もう少しすれば、あの海の向こうから、それはそれは美しい朝日が昇るのだろう。
どっからどこまでが松島なんだろう、みたいな全く予備知識なしの状態の頭でぼけーっと考えながら煙草をふかした。
冬の寒い空気の中で喫む煙草はなぜこんなにもうまいのだろう。
私はとてもハードボイルドな気持ちになったので、目を細めてポーズを決めたりして遊んだ。
そのうちに辺りがどんどん明るくなってきた。
いよいよきたぞ、お天道様とのご対面だ。
しかしながら、やうやう白くなりゆく島ぎはを眺めていた私の頭上には、朝日ではなく、特大のはてなマークが浮かんでいた。
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はて。朝日はどこじゃ。
よく見ると「白い」というよりは「灰色」の空を見て私は嫌な予感がした。
一見完璧に見えた私の計画には大きな落とし穴が隠されていたのだ。
『天気:曇り(のち雪)』
以後、完全に朝になってからも、私が太陽を目にすることはなかった。
松島や
ああ 松島や
松島や
灰色の空と海に包まれた島々を見ながらさっそく一句詠んだ。
なんかいろんな意味で言葉にならなかったのだ。
何よりもまず寒い。
私はすでに顔面が凍っており、身体は始終小刻みに震えていた。
私はようやくそこで自分が犯した最大の過ちに気づいたのだ。
『来る季節を間違えた』
それしか考えられなかった。
だって、感動などというものとは全く違う次元に私はいたのだ。
とにかく寒い。
なによりも寒い。
どう考えたって寒い。
朝日を諦めた私は、周辺を散策したり、店でご飯を食べたり、遊覧船にも乗ったが、私がそれらに抱いた感想はいずれも『まじで寒い』であった。
だって店の中まで寒いのだ。(しかも勇敢にもキンキンに冷えたビールを注文した)
松島に着いてから何本目かの煙草をふかしていた私は、手の感覚がほとんどなくなっていることに気がつき、もういいかげん仙台に戻って温泉にでも入ろうと思った。
そこに地元のおっちゃんがやってきて、「あっちにサンドウィッチマンがいるよ〜」と親切に教えてくれた。
きっと誰かに言いたくてしょうがなかったのだろう。
言われた方角に振り向くと、遊覧船のあたりでロケをしているサンドウィッチマンが確かにそこにいた。
余談だが、私は漫才もコントも、一番面白いのはサンドウィッチマンで間違いない、と思っている程度には彼らが好きである。
時代がもう少し進んでいたならば、ドヤ顔でツイッターやフェイスブックに書き込んでいたところであるが、時は2008年、私は遠目からニヤニヤと少しだけ観覧するだけにとどめ、そのまま松島をあとにした。
「今度は夏に来るね」
島たちにそう言い残し、私は再び仙台を目指した。
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6年前はじめてひとり旅したときの話【仙台編】につづく。